堺市の給食持ち帰り事件は正義か?悪か?元学校給食調理員が問題点を解説します

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こんにちは。元学校給食調理員の雲藤テルオです。
 
 
大阪堺市の高校教諭が廃棄予定の残った給食を4年間に渡り勝手に自宅へ持ち帰っていたことが発覚し、このニュースが話題になっています。
 
この問題は「法律」「衛生」「食品ロス」という3つの観点からいろいろと意見が分かれているようです。 
 
 
この教師の行いは「正義」なのか「悪」なのか。
 
 
食品に関わらない仕事をされている一般の方は何がいけないの?食品ロス減らしたのに処分されるのはおかしい」との意見が多く、
 
逆に食に関わる仕事をしている方からは衛生的にやっちゃダメなことだよ」との意見が多く聞こえてきます。
 
そして冷静な方からは「いや普通に横領だから」という意見まで。
 
元学校給食調理員の僕としては、食べられる食品を捨てられる平和で豊かな日本に生まれた幸運に感謝の気持ちでいっぱいです。
 
 
 
今回の件での問題点はこの3つです。
  • 法律違反の問題
  • 食品衛生の問題
  • 食品ロスの問題
 
では、この余った給食を持ち帰ってしまっていた高校教諭は、どうすればよかったのか。
 
教育の観点から、食品ロスはどうするのが食育としてベストなのか。
 
教育委員会もテレビのコメンテーターも本質に踏み込まずトンチンカンなことばかり言っているので、元学校給食調理員の僕がこの問題点について詳しく解説します。
 
 

大阪堺市の高校教師「余った給食持ち帰り問題」の概要

大阪府堺市の市立高校に勤めていた60代の男性教諭が、4年間にわたり廃棄予定だった給食のパン(約1000個)と牛乳(約4200本)、総額約31万円分を自宅に持ち帰っていたとして、減給3ヶ月の懲戒処分が下されたことを、産経新聞、共同通信などが伝えた。教諭は同日付で依願退職。持ち帰ったパンと牛乳の実費額を堺市教育委員会に返還したという。両報道によると、今年6月に匿名の告発文書が届き発覚。堺市教育委員会が調査していた。教諭は2015年から夜間定時制の高校で給食指導を担当。「廃棄するのがもったいないと思った」「用務員が廃棄する手間を少なくしようと思った」と持ち帰った動機を話したという。
 
引用:https://www.mag2.com/p/news/432857?s=%E7%B5%A6%E9%A3%9F
 
ここからわかる大事な点はこの4点です。
 
  • 処分教諭は公務員。
  • 処分教諭は栄養士ではない。
  • 持ち帰った給食は廃棄予定だったもの。
  • 持ち帰ったのは「パン」と「牛乳」。
 
この4点を頭に置きながら考えてみてください。
 

今回の給食持ち帰り事件の問題点はこの3つ

 
法律違反
食品衛生
食品ロス
 

▸ 公務員法違反の問題

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弁護士ドットコムニュースさんが、堺市の教育委員会に対してこの教師の処分理由について取材されたという内容がこちら。
弁護士ドットコムニュースでは堺市教委に対し、今回なぜ教師が処分されたのか取材した。堺市教委では、処分の根拠として「地方公務員法第32条と第33条に違反したため」とする。
 
第32条では「法令等及び上司の職務上の命令に従う義務」、第33条では「信用失墜行為の禁止」がそれぞれ定められている。教師は、衛生上の問題というよりも、地方公務員法に触れたということだった。
 
堺市教委では、「確かに給食は高校に限らず、小学校や中学校でも持ち帰ってはいけないことになっていますが、今回の場合は給食はそもそも生徒に提供されるべきものであり、教師のためのものではありませんでした」と説明している。
 
引用:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191226-00010589-bengocom-soci
 
学校給食法の衛生管理基準では残った給食の持ち帰りは禁止することが望ましい」となっています。
 
つまり堺市の場合には「給食の持ち帰りは禁止」とされているにもかかわらず、その命令に従わなかったのでこの教諭を処分した。ということのようです。
 
公務員は法令と上司からの職務上の命令に従う義務があるため、それに従わずに余った給食を勝手に持ち帰ったという、地方公務員法違反になります。
 
 
これは法律がそうなっているので、法的に言えば処分は仕方がありませんね。
 
しかも、生徒には持ち帰りを禁止しているわけですから。その「禁止」と言っている張本人が決まりを破って持ち帰るのは、やっぱり誰が考えてもおかしい。
 
これが法律違反の問題。
 
 
やるんだったら文部科学省に入って自分の手で学校給食法を変えてから堂々と給食を持ち帰るべきでした。
 

▸ 食品衛生の問題

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現在の学校給食では給食の残りを持ち帰ることの何が問題なのかというと、衛生的に望ましくないためです。
 
 
残った給食を生徒がどのように衛生的に自宅へ持ち帰るのか。
 
それが気温の高い夏なのか、気温の低い冬なのか。
 
持ち帰ったらすぐに冷蔵庫へ保管するのか。
 
食べるのは当日か翌日か、1週間後なのか。
 
再加熱は75度以上1分以上(食中毒予防のための加熱温度と時間)を守れるのか。
 
 
学校給食をつくる調理員や栄養士はこういう衛生管理を徹底して日々給食をつくっているわけですが、児童生徒に対しても同じようにこういうこと守らせることができるのか。
 
できませんよね。
 
学校では外へ持ち出された食品の取り扱いまで管理しきれないわけです。
 
これが食品衛生の問題。
 

▸ 食品ロスの問題

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いくら「衛生が衛生が···」と言っても、まだ食べられる食品を捨てるというのはもったいないに決まっています。
 
飲食店やコンビでも食品ロスが問題になっていますしね。
 
これが食品ロスの問題。
 
 
上の2つの法律違反と食品衛生の問題は特にその道の専門家が指摘している問題点で、この食品ロス問題は特にそれ以外の一般の方が指摘している問題点です
 

教育委員会が教師の処分理由に使った“魔法の言葉”

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話を進める前にまず、この教師が持ち帰っていた給食とは具体的にどういった給食だったのかを明確にしておかなくてはいけません。
 
 
堺市教育委員会の給食持ち帰り教諭の処分理由にある給食はそもそも生徒に提供されるべきものであり····」という点ですが、学校給食調理経験者の僕としては、ちょっとこの点が腑に落ちません。
 
僕も調理員時代には「なぜ持ち帰っちゃいけないのか」的な話になると決まって「給食は生徒のものだから」ということをよく言われました。
 
僕も正社員だったので後輩にはよくそう言っていました。
 
 
給食は生徒のものと言うのであれば、生徒も持ち帰れないのはなぜでしょうか?
 
 
この余った給食を持ち帰った教諭は、生徒から給食を奪い取ったわけでも、給食を生徒に配らず隠し持っていてそれを持ち帰っていたわけでもありません。(今のところをそういう情報はありませんので)
 
もちろん生徒が一口だけかじったパンを持ち帰ったわけでもないでしょう。
 
 
ここ結構重要な点です。
 
 
つまり何が言いたいのかというと、この教諭が持ち帰った給食というのは、
 
  1. 元から生徒に配られずに余った手付かずの給食。(生徒が最初から受け取りを拒否したもの。休んだ生徒のもの。予備分など。)
  2. 一旦配られたが生徒が食べることを放棄しそのまま手付かずで戻した給食。
 
この2つのパターンの給食ということになります。
 
 
給食の時間が終了した時点で毎日残りの給食はすぐに廃棄されるものなのは学校関係者ならば誰でも知っていることなので、その廃棄されるべき時間の後の食品が「生徒に提供されるべきもの」というのは、話が通りません。
 
「生徒に提供されるべきもの」と言うのであれば、生徒に提供されるべき給食をなぜ学校は毎日廃棄しているのかという問題にはなりませんか?
 
 
関係者がなぜどこでもこういう「生徒のため」と言うのかというと、それが一番批判を受けずに一発で相手を黙らせることができる魔法の言葉だからです。
 
つまり、面倒な問題を深く考えることを放棄した人間が使う都合の良い言葉です。
 
僕も実際、都合が良いのでこの言葉を使っていました。
 
 
なので、処分理由をこういう誤魔化しの言葉にするのはやめて「法律違反」と「衛生の観点から」と言うべきです。
 

「給食の量を減らすべき」という意見について

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コメンテーターの玉川徹さんが番組でこうコメントしていたとニュースになっていました。
こうした問題にコメンテーターで同局の玉川徹氏は「処分はおかしいって言っている廃棄にお金がかかる、フードロスとかじゃないと思う。もしか、それを言うんであれば、毎日、余っていたわけでしょ?ある一定の数が。だったら先生はその数を少なくするって形で発注を変える方向に働きかけなきゃいけないと思う」と指摘した。
 
引用:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191227-12270064-sph-soci
 
この教諭が持ち帰った給食というのは「パン」「牛乳」なんですね。
 
もちろん、生徒が一口かじったパンと一口飲んだ牛乳を持ち帰ったわけではないでしょう。手付かずのパンと牛乳だったはずです。
 
つまり、パンを一口も食べずに残した生徒、牛乳を一口も飲まずに残した生徒がいるんですね。
 
ということは、玉川徹さんが言っていることは、そういう生徒には最初からパンと牛乳を提供せずに発注量を減らせという話になります。
 
僕も個人的にはそれでいいと思いますが、生徒の栄養バランスを考えての給食なので、食育的に「それでいいのか?」という問題もあります。
 
 
わかりやすいパンや牛乳ではなく、味噌汁だった場合はどうでしょう。
 
同じ給食費を取っているのに「あのクラスは毎日味噌汁残るから最初から少なくしとこう」ということをしすぎると、不公平になります。
 
 
「○○君はいつもおかわりするのに給食費が同じなのは不公平だ」
 
「うちの子は味噌汁飲まないから給食費安くして」
 
明日の味噌汁はうちの子の嫌いなもの入ってて食べないから1日分安くして」
 
 
こういうことへの対処はどうするのでしょう。
 
百歩譲って児童生徒一人ずつ対処できたとして、食育の観点から「それでいいのか?」という問題もあります。
 

給食の食品ロス問題は食育的にどう解決すればいいのか

 
ちなみに言うと、今のところニュースではこの教諭は栄養士ではなくただの給食担当とのことなので、食育を中心に毎日仕事をされている方ではなく、普段は生徒に勉強を教えているただの一般の教師です。
 
そのただの一般の教師が、生徒に給食を食べさせるためにどうすればいいかというような、学校給食栄養士が毎日頭を悩ませても解決しないような問題を抱えさせるのは無理があります。
 
 
それでは、学校給食の食品ロス問題は、食育の観点から一体どうするのがベストなのか。
 

▸ 作った給食は全部配るべき

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「給食は生徒のもの」と言うのであれば、作った給食は全て一滴残らず生徒に配るべきです。
 
その上で、手付かずで残すのであれば所有権を自ら放棄させるべきです。
 
所有権を放棄する旨を一筆書かせるのもアリでしょう。
 

▸ 残った給食は生徒自ら廃棄させるべき

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「給食は生徒のもの」と言うのであれば、残った給食は所有権のある生徒自らの手で廃棄させるべきです。
 
なぜ廃棄だけを他人に譲渡させるのか。
 
 
できれば、作った調理員の目の前で自らゴミ箱へ捨てさせるべきです。
 
ついでに、恵まれない国のガリガリにやせ細った子供の写真も飾っておくと良いでしょう。
 
「クラスで飼っていた豚を生かすか殺すか問題」と同じような意味で、これこそ食を考えるための食育です。
 

▸ 給食を粗大ゴミ回収ルールと同じ扱いにするのをやめるべき

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ゴミの日に出す家庭ゴミは、捨てたゴミでも捨てた本人以外の人が勝手に持ち帰ると犯罪になる可能性があることは、誰でも知っていますよね。
 
それは、その住人と役所が「捨てたゴミは役所が回収し廃棄します」という契約を結んでいるから契約外の人が勝手に持ち帰るのは犯罪に当たるということのようです。
 
教育委員会が「給食は生徒のもの」と言うのはおそらく、残った給食もこのゴミ回収ルールと同じ扱いで考えているからではないかと思われます。
 
つまり、生徒(保護者)と学校が「残した給食は学校が廃棄します」という契約を結んでいるから、その契約に反して勝手に持ち去り食べるのは違反だ。と。
 
食品において、このゴミ回収ルールと同じ扱いで考えるのは豊かな国ならではの発想です。
 
 
つまり私達日本人はとっても幸せな国民です。
 
 
堺市教育委員会は教諭の処分理由として「衛生的に」というよりも「法律」とか「命令」とか「給食は生徒のもの」という思いの方がどうも強いようなので、それならば変えるのは簡単です。
 
給食に対して自治体のゴミ回収ルールと同じ扱いをやめるだけでいい。
 
 

【結論】それができないなら給食なんてやめちまえ

 
この堺市に限らず、僕が働いていた東京都でも給食の持ち帰りは禁止になっており、「給食は大人のためのものではなく生徒のためのものだから大人が食べちゃだめ」だと言います。
 
ということは学校給食は全国的に、まだ食べられる食品を廃棄する以外の道がありません。
 
そして毎日その大量の給食を廃棄するのは現場の調理員です。
 
なので、現場で働く調理員は「もったいない」という気持ちを封印しないと働けない仕事です。
 
 
 
飲食店のように利益を出すことを考えなくていい学校給食においては、単純に生産量を需要に見合った量に減らせばいいというものではありません。
 
学校は「食育」を考えなければいけないからです。
 
つまり給食も「教育」です。
 
授業をしても点数が伸びないからって授業時間を減らさないのと一緒です。
 
 
飲食店はお客さんに食べ物を「買ってほしい」ので、売れなければつくらなければいいですが、学校は生徒に食べてほしい」わけなので、“売れなくても” つくらなければいけません。
 
その “売れないけど” つくって余った給食をどう処理するのかも、食育なのではないでしょうか。
 
 
 
食育という教育に関わる公務員の皆さん。
 
つくった食べ物は全員に配り、残した食べ物は自分の手で始末させ、それでも残ったまだ食べられる食べ物は食べられるうちに食べたい人に食べてもらう。
 
 
これができないのならば給食なんてやめちまえ
 
 
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日本の食育は良い部分しか児童生徒には見せません。
 
食にまつわる “闇の部分” というのはいろいろとありますが、一番簡単にできる全校生徒が残した残飯の量を児童生徒に見せる」ということすら、学校ではやりません。
 
 
そんなこともできないのならば食育なんて無駄なものはやめた方がいい
 
ゆとり教育だって無責任にやめたんだから、食育だって無責任にやめられるでしょう。
 
 
 
学校の食育はすごく中途半端な教育だなと、僕も現役当時から思っていました。
 
僕も日本の教育に食育は必要だと思いますが、そんな中途半端な教育ならば学校給食なんてやらなくていいと思います。
 
日本の教育でパンとか、日本の教育でクリスマスに知らない外国人の誕生日を祝うためにケーキとか、落とした箸は自分で洗わせずに新しいものと交換とか、作った大人に対して平気で「不味い」と言って残したりとか、食育でこの程度の教育しかできないのならば給食なんてやらなければいい。
 
食べたい生徒にだけお金を取って食べてもらえばいいし、もう弁当でいい。
 
 
 
それと最後に、日本の食品衛生は厳しすぎる。
 
そんな美しい “無菌室” で育った日本の子供が大人になり外国へ行ったらすぐ腹壊す。
 
腹壊したらそれは不衛生な外国のせい。
 
なら鎖国しろ。
 
 

 
 
 
 
 
 

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